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施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』感想

 施川ユウキっていうとなんとなく『バーナード嬢曰く。』が思い浮かぶ。アニメ化もされた人気作だ。

 バナ嬢は基本ギャグ漫画の構成を取るし、施川ユウキはギャグ漫画家なのかなと勘違いしてる人も多いかもしれない。実際僕もそうだったが、『銀河の死なない子供たちへ』にストーリーテラー施川ユウキのエッセンスが詰まりに詰まっていて、その勘違いをぶち壊された。

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 あらすじを説明すると、πとマッキという不老不死の子供達が、同じく不老不死のお母さんと3人で生きている。彼女達が生きるのは人間と文明を完全に失った地球。残ったのは彼女達3人だけだ。ある日そこにロケットが墜落し、出てきた女性が死に際に赤ちゃんを産む。ミラと名付けられたその赤ちゃんをπとマッキ2人で育てることに決める。赤ちゃんは歳を取り、2人は変わらない─。そんな話である。

 マジでこの作品は最高だった。上下巻の2巻完結なので、気軽に読んでみてほしい。

 

てことで感想を書きたい。初めに言うと僕はこの作品を人間讃歌的な目線では見ていない。ミラのセリフが印象的で、

「私は人間なのπ。だから...だから私死ぬの。ごめんね。」

と彼女は弱った身体でπに伝える。一貫してこの作品は「人間は死ぬ 人間だから死ぬ」という姿勢を取っている。そしてこれは別に人間に限った話ではない。うさぎも犬も羊も死ぬ。この作品で死なないのはπ達だけだ。マッキは自虐的に「部外者」と自称する。ミラは始め、π達の「部外者」として地球にやってくる。そしてπとマッキの家族になる。「部外者」から「関係者」になったミラはそれでもやはり、歳をとって死に向かう。本質的にに世界から取り残されているのはどこまでもπ達だ。

 ミラとの関わりを通じて、πは世界の関係者になるため、人間になることを選ぶ。対照的なのはマッキだ。彼は母に寄り添い不死でいることを選ぶ。暇さえあれば本を読み、誰よりも違う世界を知りたがっていたマッキが、母を「本当の部外者」にしない為に、部外者、言い換えれば家族として共に残るという選択が胸を打つ。数え切れないほどのマッキのペットの墓を描くシーンがあった。マッキは誰よりも取り残される辛さを知っているからこそ、この選択を取る。 マッキというキャラクターの集大成がこのシーンにはあった。

 πは星空に向けて旅立つ。ここでもまた印象的なセリフがある。マッキの

「...π 宇宙は広いけど。大丈夫だよ。πはいつだって星を見ていたんだから」というセリフだ。

 ある意味ミラの遺志を受け継ぐようなπの選択だが、πもまた外の世界に大きな憧れがあったのはハッキリしている。物語冒頭から彼女は手を掲げ星空に「おーい」と呼びかけている。

 πの心情を表すやりとりとして最高だったのが、旅立つ直前マッキに「今どんな気持ち?」と尋ねられ、笑顔で「すっごくドキドキする!」と答えるシーンだ。ワクワクとかではなくドキドキ。こんなに的確で素晴らしいドキドキの使われ方をマジで見たことがない。

 もう一つ、一番言いたかったのがラストシーンの美しさだ。作品内で何度も使われていた表現として

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こんな風に星が円を描き、長い長い時間が経ったことを示すものがあった。

 ラストシーンでは、この星の軌跡をπの乗った宇宙船が押し開くように進んでいく。そしてマッキの「パイへ 未来(ミライ)は君とともにある。」というメッセージ。本当に本当に美しいラストシーンだと思う。

 人間讃歌とか、死ぬことが素晴らしいとかではない。どう生きてどんな選択をするか、その中に何か素晴らしく、美しいものがあるのではないか。僕はこの作品をそういうふうに受け取っている。

 本当に最高の作品だった。みんな読もう。

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